恵里香はデスクに座り、パソコンの画面を見つめていた。工場の一画に設けられたパーティションで区切られただけの小さな事務所の周囲は静まり返っていたが、定時を告げるチャイムが鳴ると通路が少しずつ騒がしくなる。タイムカードの打刻機が事務所の目の前に置いてあるのだ。 開けっ放しのドアから顔を出して声を掛けてくれる派遣労働者もいる。「お疲れさまです、恵里香さん!」 管理担当者とコミュニケーションを取ろうとしてくれるのは恵里香としてもありがたい。そういう人は無断欠勤等の問題を起こしにくいからだ。だから、恵里香も丁寧に応じる。「お疲れさまです! 今日のお仕事はどうでしたか?」「大忙しでしたが、なんとか終わりま…