鷺沢萠の初期の代表作の一つ。芥川賞候補にもなった短編。同名の短編集もある。
薬を飲んでもいないのに視界が濁り、仕方なく触れた地面の冷たさに覚えがある。これは誰かの、知らない人の、知っている、あの人の、てのひらだと思える。滑らかで熱を欠いた皮膚に擦れた私の指先は震えている。微かに、私の肉体の内部、硬い骨、そのものに、てのひらから染み出す内臓が直接絡みついてくる想像が始まったせいだ。私は骨についてあまりにも長く考えすぎていた。人間が死に、焼かれてもなお遺る骨の異物感に取り憑かれた身体の内部で、やはり本当に何かが絡みだして、全く予測出来ないその動きにやられてしまう。 堪らなくなりもう一度てのひらを求めると粘土のように柔らかく窪み、震える指先を引きずり込もうとしていた。私は、…