九鬼周造『人間と実存』(岩波文庫、2016年) 一体、現存在とは無の中へ引き込まれていることである。被投性に就て考えればよい。現存在は存在する限り投げられているのである。すなわち彼れ自身によって彼れの「現」へ齎されたのでは無い。被投性の裏へ廻ることは絶対に出来無い。現存在は実存する限り彼れの存在可能の根拠であるが、しかもその根拠を彼れ自身で置いたのでは無い。現存在は彼れの根拠の前には決して実存し無い。常に根拠から、また根拠として実存する。従って根拠であるということは最も自己的な存在を根拠共には決して支配することが出来無いことを意味している。無ということが被投性の実存論的意味に属している。現存在…