『ゲド戦記 影との戦い』は傑出した文学である。それは感触として分かるのだが、僕はまだその全貌を掴み切れていない。理解できたという感じがしないのである。それでもいくつか分かったことがあるので、ここに書いてみることにする。 まず冒頭の「ことばは沈黙に……」という箇所について触れると、これはどうやら創世記の「光あれ。」に反対しているらしい。まず言葉があって、事物があとからそれに従うという人間の傲慢な考え方に、ル・グウィンは抗議しているのだと思われる。この思想は至るところに顔を出している。次の引用は、ゲドがロークの学院に初めてやってきて、大賢人ネマールと会うところ。 ふたりの目が合った。と、木の枝にい…