朝の熱気と、ひとつの句を思い出す 朝の湿気が、指先にまとわりつきます。湯気を吐くマグカップの縁が熱くて、机の木目が汗ばんで見えます。画面の隅では通知が点滅し、胸の奥で鼓動が少しだけ速くなります。こんな時、わたしは一つの句をそっと思い出します。 心頭滅却すれば火もまた涼し。荒ぶる熱に対して、心の側から温度を下げるという比喩です。強がりではありません。精神論の合言葉でもありません。 逸話と源流――物語の力と詩の骨格 この句が広く語られるきっかけになったのは、戦国の炎の物語です。天正十年、甲斐の恵林寺が焼き討ちに遭った折、住持の快川紹喜が座を崩さず一言を発したと伝わります。「安禅は必ずしも山水を用い…