幼いころからなぜかとてもお気に入りだった 1枚のポートレイトがある。 幕末から大正期までを生きた 古い家族たちの写真とともに 我が家の「写真箱」の中で 家族同然、それ以上に大切にされてきた 1枚の立派なポートレイト。 そこに写っている人物は 白い髭をたくわえた、1人の上品な紳士だった。 幼い私は一体いつごろから 正確にその人物を認識していたのだろうか。 お気に入りだったそのポートレイトに 精一杯の親しみを込め 「オヤイヅサン」と呼んでいた。 その人物が家族とどう関係しているのかも 全くわからない年齢だったにもかかわらず 父の書斎にそっと忍び込んでは お気に入りの「オヤイヅサン」をひっぱり出し …