「反音楽史」とは面妖な。何に対する「反」であるのか、それとも「反音楽」なるジャンルの歴史であるか。その疑問はすぐに解氷するのであって、すなわち日本の音楽の授業でならう音楽の歴史(J.S.バッハが音楽の父でそのあとハイドン-モーツァルト-ベートーヴェンと発展、音楽の都はウィーン、声楽よりも器楽が重要、ソナタ形式こそ音楽の頂点、娯楽ではなく精神性の高いものが優れ、楽譜から作曲者の意図を知るべきなど)は19世紀半ばころに作られた神話であるというのだ。事実に即してみれば、上の音楽の系譜にある作曲家たちはヨーロッパ全土の人気を得たことはなく、没後しばらくは忘れられ、数十年後に上の神話とともに「再発見」さ…