同愛会は朝鮮人団体である。 墨田区本所に本部があった。 大正十五年師走のある日、大きな荷物を携えた日本人青年が、この同愛会本部を訪れている。 どういうアポも、紹介状の用意もない。一見の客の脈絡のない訪問である。疑惑の視線を隠そうともせぬ受付に、青年はしかし特に気にしたふう(・・)もなく、 「どうぞこれを皆さんに差し上げてください」 運び込んだ大荷物、銀座三越の包装が為されたそれを指差し、あとはどういう反応も求めてないのか、からりと身を翻して去ってしまった。 (昭和初期の銀座三越) てきぱきとしたその仕草。 (なんなんだ、これ。なんだったんだ、あいつ) 事態の咀嚼に、受付はだいぶ時間を要した。あ…