祖父の三回忌の法事のある前日、信太郎は寝床で小説を読んでいると、並んで寝ている祖母が、「明日坊さんのおいでなさるのは八時半ですぞ」と云った。 「わかってます」と云った信太郎だったが、ランプを消したのは一時を過ぎていた。翌朝、信太郎は祖母の声で目を覚ました。「六時過ぎましたぞ」最初は、驚かすまいと耳のわきで静かに云っている。 「今、起きます」「直ぐ起きます」「大丈夫、直ぐ起きます。彼方へ行ってて下さい。直ぐ起きるから」 彼はまた眠りに沈んで行った。「さあさあ。どうしたんだっさ」今度は、角のある声だ。 『或る朝』は、祖父の法事の朝の、祖母と孫のドラマです。“夜更かしをして起きられない孫”と祖母との…