阿川弘之の「志賀直哉」とその周辺の人物についての記録文学。 野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞。
志賀直哉〈上〉 (新潮文庫)
志賀直哉〈下〉 (新潮文庫)
1883年2月20日宮城県石巻町生まれ。作家。1971年没。父直温、母銀の次男として生まれる。
1910年、武者小路実篤、有島武郎らと「白樺」を創刊。以降「白樺派」として戦前の小説界を牽引する。異名「小説の神様」。自らを題材に採った告白小説・私小説を中心として執筆。太宰治『如是我聞』などでの批判をのらりくらりとかわす。
『文豪東京文学案内』(笠間書院) 田村景子・編、田村景子、小堀洋平、田部知季、吉野泰平・著 書店発売日:2022/4/27 書店で現物を確認。「『小説の神様』は、東京を疾駆した 志賀直哉の東京」という章があり、「自転車」「小僧の神様」「正義派」「城の崎にて」「灰色の月」がとりあげられていた。「自転車」がいちばん分量が多く、作品に登場する坂を地図で示している。 志賀以外の白樺派は目次に無し。 文豪東京文学案内作者:田村 景子,小堀 洋平,田部 知季,吉野 泰平笠間書院Amazon
第三部 ヨーロッパの諸言語とナショナリズムの挑戦第七章 言語からの号令言語の運命への人間の介入 私的な道と公的な道借用は元の言語の用語をそのまま持ち込むこともあれば、受け入れ側の言語の音韻に適応させることもある。借用に対しては、しばしばナショナリズム的態度によって拒否されることがある。その際、改革者たちは土着の語根や、それらの語根の組み合わせからなる複合語に依拠することを好む。p223言語が民族をつくる1848年の爆発によって、絶対主義国家がそのこだまを忘却の彼方に追いやろうとしていた古びたことばが再び姿を現した。諸民族が次々と発する声はうねりとなってヨーロッパを揺るがした。それは、中欧や東欧…
中村光夫編「私小説名作選」(上下巻、講談社文芸文庫)を読んだ。 せっかくなので感想を記したいが、「名作選」との言葉通りいずれも文壇の大家による名品ばかりなので、作品の客観的な価値とは無関係に、あくまでも今の自分がどう感じたかというに過ぎない(そもそも客観的な価値とは何か、というめんどくさい議論はしない)。はじめに全体的なことについていえば、収録作品の中には私小説なのかどうか疑問に思うものもあった。女性作家が一人もいないことも気になった。 <上巻> 田山花袋「少女病」 田山花袋といえば「蒲団」、「蒲団」といえば自然主義文学の代名詞という具合に学校では習ったものだが、この「少女病」という小説は最後…
兵庫県の城崎温泉が舞台となった、随筆とも小説とも取れる志賀直哉の短篇「城の崎にて」 山手線の列車に跳ね飛ばされながらも、奇跡的に一命を取り留めた主人公(作者自身)が、療養のため滞在した城崎で体験した幾つかの小動物の「死」とその間際に、自身の命を照らし合わせるという非常にシュールな作品である。 悉く癖と無駄を削り、読みやすさを追求し、死なので洗練された文体は、通読した後でもずっと印象に残っている。 (ひょうごツーリズム協会様が無料公開されていた画像を借用) 散歩の道すがら、主人公が鼠の窮地に遭遇した橋はここなのかも…⁉ さて、写真で見る限り城崎温泉街は非常に長閑な場所に見え、夜は一層美しい印象で…
先日、友人に『城の崎にての作者、覚えてる?』と唐突に聞かれました。 『習った!・・・白樺派しか出てけーへん(笑)誰やっけ?!』と思い出すのに苦労したので、その時のお話を少し。 そもそも、なんでその話になったか? 城の崎にての作者は・・・ ちなみに私の好きな歌人・歌集について 俵万智(たわらまち) サラダ記念日 そもそも、なんでその話になったか? 友人が家族で(仕事の用事だったか旅行だったか忘れてしまった)島根~鳥取~兵庫へ移動中だったとの事。 兵庫北部へ移動中に、『城崎』という文言が書かれた看板を見つけた友人一家。 車内で『いや、城の崎にてやん!』と盛り上がったらしく、作者を思い出すのに一苦労…
自選による23篇の短編集。 久々の志賀直哉だ。卒論に書こうと思って全集を買ったくらい、一時は好きだった。 ほとんど読んでいるはずなのだが、ほとんど思い出せない。どこに惹かれたのかも今となっては定かではない。半世紀近く経っている。もう初めて読むようなものだ。 「山科の記憶」などに書かれている妻への視線、犬や鴨など小動物への思いが印象的だ。 志賀直哉はイメージと違って、家庭では短気だが愛情深い。妻をはじめとして女全般に甘いと自分で言っている下りがあるが、そうだろうと思える。子どもの甘え方で優しさがわかる。けっして恐ろしい父ではないのだ。 熱があって留守番しなければならないと言われてすねて甘える子ど…
楽山の病質2 「内村鑑三先生の憶ひ出」志賀直哉著 2020年12月18日 楽山日記(LD) http://mn266z.blog.jp/archives/27378935.html を改めて批判。 楽山が、書きたかったのは憶ひ出(思い出)ではなく、悪口だと思います。引用しておきながら、悪口を言う、このような分裂した筆致が、楽山の腐った持ち味です。 >これは内村鑑三と師弟関係にあった志賀直哉の随筆であるが、内村鑑三にまつわる逸話が多く紹介されていて、頁数は少ないものの、なかなかに読み応えがあるものになっている。ちなみにここで披露されている逸話のうち、いくつかを抜き書きしてみると、まず内村鑑三は何…
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今週のお題「読書の秋」 私は、志賀直哉/著 「暗夜行路」の文庫本を持っている。 持っている。読んではいないのだ。 これは社会人になりたての頃、大学時代の友人と奈良県にある志賀直哉旧邸を訪れた後に買ったものだ。 私は学力こそないが、高校〜大学にかけて、水を浴びるように本を読んだ。電車での通学時間はもちろん、各休み時間、ついて行けなくなった授業など、常に本を持ち、空想の世界にいた。 友人はそんな私の姿を見ていたこともあり、気軽に、「志賀直哉、なにか読んだことある?」と話しかけてきた。私は「ないな…というか暗夜行路しか知らない、何も持ってない…」「次会うまでに暗夜行路読んでおくわ!」 それから約10…
217.『心』志賀直哉の場合(承前)――神経戦ガチンコ勝負 折角ここまで書いて来たのだから、オマケとして志賀直哉が漱石のことを語った文章を年代順に掲げてみる。 Ⅰ 夏目先生のものには先生の「我(が)」或いは「道念」というようなものが気持よく滲み出している。それが読む者を惹きつける。立派な作家には何かの意味で屹度そういうものがある。然し芸術の上から云えば此「我」も「道念」も必ずしも一番大切なものではない。そして誰よりも先ず作家自身、作品にそれが強く現れる事に厭きて来る。「我」というものが結局小さい感じがして来るからであろう。「則天去私」というのは先生として、又先生の年として最も自然な要求だったと…
国語の教科書に、『暗夜行路』が載っていて、「六根清浄、お山は晴天」という言葉がでて来たのを覚えている。『暗夜行路』のこの辺りなんだろう。「六根清浄、お山は晴天」は、霊山である伯耆大山に登るための呪文なんだと聞いたことがある。「六根清浄」と言いながら、主人公の時任謙作が、若い会社員たちと伯耆大山に登り始めた件から引用する。 <竹さんがよく仕事をしていた場所から十町ほど進むともう木はなく、左手は萱の繁った山の斜面で、空は晴れ、秋のような星がその上に沢山光っていた。路傍に風雨に晒された角材の道しるべ少し傾いて立っていた。それが、登山口で、両方から萱の葉先の被いかぶさった流れの先のような凸凹路を、皆は…
―その1484― ●歌は、「しなでる 片足羽川の さ丹塗りの 大橋の上ゆ 紅の 赤裳裾引き 山藍もち 摺れる衣着て・・・」である。 愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P22)万葉歌碑<プレート>(高橋虫麻呂) ●歌碑(プレート)は、愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P22)にある。 ●歌をみていこう。 題詞は、「見河内大橋獨去娘子歌一首并短歌」<河内(かふち)の大橋を独り行く娘子(をとめ)を見る歌一首并(あは)せて短歌>である。 ◆級照 片足羽河之 左丹塗 大橋之上従 紅 赤裳數十引 山藍用 摺衣服而 直獨 伊渡為兒者 若草乃 夫香有良武 橿實之 獨歟将宿 問巻乃 欲我妹之 家乃不知久 (…
●概要 ●ミュージシャン等17名 ●漫画家59名 ●ゲームクリエイター14名 ●小説家 等66名 ●哲学者1名 ●ファッションデザイナー3名 ●写真家2名 ●映画サイト運営者 ●概要 現在157名分のリストを掲載。 このコーナーは「映画人のオールタイムベスト(個別)」に掲載した以外の漫画家、アニメーター、ゲーム開発、シンガー、作曲家、小説家、その他クリエイターが影響を受けた映画のリストをまとめた掲載先のリンク集です。 ・●●●●●・ ・●●●●・ ・●●●●・ ・●●●●・ ※数字をいじるとリンクが機能しなくなるので注意 ●シンガー、ミュージシャン等9名 ・マイケル・ジャクソン・ ・マドン…
『暗夜行路』の後編を読んでいる。興味深くなって来た。この本を読んだのは、佐藤正午さんと言う小説家の『小説の読みかき』を読んだからである。佐藤さんは、私よ莉8歳若い長崎の佐世保出身の方だ。北大の文学部を中退して、佐世保に帰って小説を書いていて、随分遅くなってから、直木賞をとった。2017年だから、いまから5年前だ。もう66歳だと言うから、5年前は61歳の時だ。北大の国文化を中退している。私よりも、九歳も若いのだが、中退し佐世保に帰ってずっと小説を書いていたのだろうか。『永遠の1・』ですばる文学賞、山田風太郎賞(2015年)、直木賞は『月の満欠け』だ。佐藤さんの本を読んでみたい。 さて、『暗夜行路…
・亀田俊和氏の勤務先への抗議などは、絶対にやめて下さい。宜しくお願い致します。 ・初めて当エントリーを読まれる方は、亀田俊和 - Wikipediaの他、以下の「呉座勇一事件(呉座騒動)」に関する記事などの、ご一読をお勧め致します。 kensyoiinkai.hatenablog.com kensyoiinkai.hatenablog.com kensyoiinkai.hatenablog.com 「匿名で悪口スクショが続々と…」呉座勇一氏“中傷投稿”問題、渦中の北村紗衣氏が語る顛末 | 文春オンライン 自分を責める気持ちが湧いてきて…呉座勇一氏“中傷投稿”問題、北村紗衣氏が語る「二次加害の重…
才介は、帰りの車のなかで、終始不機嫌そうだった。しばらく続く一本道を片手ハンドルで進めながら、「あのジジイ、ろくな仕事もってこない上に、手当も少ねえ、いっつもだ」才介はちらっと助手席の僕に目をやったあと「あんたも、そのつもりでやるんだな」と言う。「知り合いの人が、目利きだって言ってたけどな、師匠のこと」この僕の発言に才介はふっと笑って、「目利きには間違いないだろうが、商売の仕方がきれいじゃねえ」バックミラーをちらっと見たあと「おれは正直組みたくねえんだ」と、アクセルをやや踏み込む。それから、急に顔つきを変え「ただな、ちょっとした噂を耳にしてな」才介の細い眼がうっすらと輝く。「先月新券が出ただろ…
<彼はしかし、女のふっくらとした重味のある乳房を柔らかく握って見て、いいようのない快感を感じた。それは何か値うちのあるものに触れている感じだった。軽く揺すると、気持ちのいい重さが掌(てのひら)に感ぜられる。それを何といい現わしていいかわからなかった。 「豊年だ!豊年だ!」といった。 そういいながら、彼は幾度となくそれを揺振った。何か知れなかった。が、とにかくそれは彼の空虚を満たしてくれる、何かしら唯一の貴重な物、その象徴として彼には感ぜられうのであった。> 「前編」の最後のところを引用した。名文である。新鮮である。随分まえの小説とは思えないような気がする。 ここまで、きて、主人公の時任謙作は小…
今日は一日国会図書館デジタルコレクションに没頭。 とりあえずチェックだけして後でゆっくり読もうと思うのだが(たぶん一生かけても読み切れそうにない)、ついつい読み耽ってしまう。そしてやはりPCの画面上では読みづらい。昨日はタブレットでも読んでみたが、レイアウトを工夫すればその方がましかもしれない。 取り急ぎ個人用メモとして閲覧可能な資料をここに書いておく。 <雑誌> 文芸(1933~1944) 季刊芸術(1967~1979、江藤淳、小島信夫はじめ充実の執筆陣) 新日本文学(左翼系文芸誌だが多様な作家が書いている) 小説公園(1950~1959、面白い。川崎、上林、小島、八木、松本清張まである。「…
5/14(土)なにかを善だと認めたのなら、これを捕えようと欲すべきだ。そうせずにいるのはたんなる怯懦である。(シモーヌ・ヴェイユ『根をもつこと(下)』冨原眞弓訳 岩波文庫 p68) まがいの無限性を追い求めずにいられない刑罰。これは、地獄そのものである。(シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』田辺保訳 ちくま学芸文庫 p117) どんな嫌悪をも、自己への嫌悪にかえること……(p292) 5/14(土)・ピエール・ルヴェルディ『死者たちの歌 詩集』(佐々木洋訳 七月堂 2021.8)・福永武彦『廃市』(P+D BOOKS 2017.7)・『金井美恵子詩集』(現代詩文庫 1973.7)・木田元『ハイデガ…
さて お昼をいただいたところで プチ旅行再開♪ 奈良公園 いや、奈良へ来たnara(笑) ここは外せへん!定番中の定番 東大寺へ!いざ! 東大寺南大門前に 鎮座ましましてた 鹿様 角がまぁ ぴかぴかざます。 鹿子がうっすら背に残るところから まだお若い鹿様とお見受け候。 ご挨拶して、大仏殿へ 何度も何度も来ている 東大寺大仏殿 いやぁ 何度見ても大きいなぁ 分かりましょうか? 入り口に沢山の修学旅行生がいらりますが その大きさと比較すると 大仏殿大屋根の大きさ いかばかりか…。 それにしても、この日は本当に沢山の 修学旅行生に会いました イントネーションから関東方面と思しき中学生さんたち 制服…
297.『草枕』降臨する神々(1)――不惑の詩人 「正岡子規三十六、尾崎紅葉三十七、斎藤緑雨三十八、国木田独歩三十八、長塚節三十七、芥川龍之介三十六、嘉村礒多三十七。」 これは昭和19年、有名な太宰治『津軽』の書き出しであるが、この顰に倣えば太宰治本人も後年誰かに、 「中原中也三十一、中島敦三十四、織田作之助三十五、太宰治四十・・・」 などと言われるところであろうか。(年齢は数えによる。) 太宰治が亡くなったのは戦後である。戦後の民主主義の世の中では年齢は満年齢である。 そもそも人間の年齢を数えで表わすのは、人間を商品と見ているからで、勘定する側にとってはそれが簡便で合理的だからであろうが、1…
夕日ヶ浦の磯で釣りをする人 ◎豊岡市竹野町の海岸を訪ねる 切浜海岸を国道から望む 小さな入り江の小さな港 切浜海岸でワカメを採集するオッサン 海岸の先にあった「淀の洞門」 猫崎半島の甌穴群を訪ねる途中にあった祠 この辺りは落石が多い場所 波食甌穴をたくさん見つけた 甌穴群だけが見所ではない 下北半島の仏ヶ浦を思い出した 小さな穴は穿孔貝の仕業か? ◎城崎にて 温泉駅前にまず立ち寄る 閑散とした駅前風景 城崎はカニの水揚げ地でもある 大谿川を渡る山陰本線 城崎温泉の代表的な風景 城崎文芸館の外観 志賀直哉の文学碑 温泉寺の楼門 温泉寺の薬師堂 城崎ロープウェイに初めて乗る 温泉寺奥の院 大師山の…
『暗夜行路』の、「序詞(主人公の追憶)」は、結構、興味深い。こういう書き出しだ。 <私が自分に祖父のある事を知ったのは、私の母が産後の病気で死に、その後二月ほどたって、不意に祖父が私の前に現われて来た、その時であった。私の六歳の時であった。> こういう出だしである。主人公の時任謙作の実の父親の出現であった。私は、この小説の粗筋を既に知っているのだ。謙作は戸籍上の父親が、三年間の間ドイツに行っている間(留学)に、祖父と母親の不義(不倫)で生まれた子であった。父親がドイツに留学中に、事実を知らせると「許す」との返事がきた。その結果、謙作は二男として生まれ育ってきた。六歳の時に、産後の肥立ちが悪く、…
どうも。旅するおやじ旅吉です。 昨日、山陰若狭のキャンピングカー旅について、但馬国(兵庫県北部)編を書いていたら、うまく保存できず、かなりの量の文章がふいになってしまいました。なぜだか下書きの機能がうまく働かなかったみたいです。あとで検索しても発見できませんでした。仕事時間中に作業の合間を縫って書いた文章だったので、結構ショック大きかった。 今日は休みなので、レクビィの「プラスLV +1」で甲佐町の津志田河川自然公園(通称乙女川原)にやってきました。パソコンを持ち込んでテザリングに初挑戦。無事にオンラインになったので、薫風に吹かれて但馬国編を再度書いてみることにしました。 但馬国への思い入れ …