見上げると、ビルとビルの間から濃いグレー色の叢雲がゆっくりとこちらに向かって流れていた。生まれたのは遥かシベリアの地だろうか、冷たく乾いた風は背負っていた荷物をおろし身軽になったかのように鋭く、そして刺し込むように人の体めがけて吹いてくる。 今年は暖冬だとどこかの気象予報士が言っていたが、今日の空模様は予想されたような穏やかな冬を微塵も感じさせないでいた。 どんよりと、今にも雪を降らせそうな黒い塊を見ながら、二週間以上柚子と連絡がつかないことに高野はただならぬ何かを感じ始めていた。 作家が本業と公言する高野だが、オランダ デンハーグ駅再開発プロジェクトは別であった。 めずらしく遅い時間まで社長…