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戦略爆撃

(一般)
せんりゃくばくげき

戦略目的で行われる爆撃。戦術爆撃の対義語。ただし、歴史上の場合でさえ、いずれを戦略爆撃とするかは常に議論の対象となっている。

考え方

第一次世界大戦を乳母として航空機は発達し、航続力と搭載能力が十分に向上すると、それを使って本来は手の届かない目標、「銃後」に位置する敵国中枢部を直接に攻撃することが可能になった*1
戦争中は技術的制約もあってそれほどの発達を見なかったが、戦間期にはイタリアのドゥーエやアメリカのミッチェルといった空軍万能論者が出現して爆撃の重要性を説いている。
彼らの思想を大雑把に要約すれば*2、総力戦下では、野戦軍を撃滅せずとも先に敵国国力の根幹をなす部分*3を空軍で破壊してしまえば戦争に勝てる、というものである。
もちろん、当時の空軍力はまだ雛鳥同然であり、とてもそんな大それた目標を実現する力などはなかった。しかし戦間期に着々と空軍力は進歩を遂げ、空軍を独立させる国も出ていたし、大型の爆撃機も実用化されるようになっていた。

第二次世界大戦

政治面を別にすれば*4、ゲルニカや重慶で行われた行為にはさしたる重要性はない。
それよりは、バトル・オブ・ブリテンが、軍事的には無意味とされるロンドン空襲というクライマックスを迎えてしまった結果、戦争の方向がどこかに曲がってしまったと考える方がリーズナブルではある*5。欧州で発達した戦略爆撃という行為は、カーチス・ルメイという希代の実行者の手によって、東洋で一つの究極形を見せることになる。
枢軸軍は、最後まで大型の戦略爆撃機の量産に成功しなかった*6。これに対して連合国軍は多種大量の戦略爆撃機群を送り出し、ドイツと日本の都市を次々に焼け野原に変えていった。

矛盾

大戦から引き出される教訓は、対都市無差別爆撃の有用性ではない。むしろその限界である。
よく知られているとおり、ドイツの軍需品の生産は1944年に頂点に達している。連合軍側の戦略爆撃にもかかわらず、ドイツ軍はかなり末期まで組織的な戦闘力を維持していた。
それと比べれば日本本土に対する空襲は効果的であったと評価できるかもしれない。だが、大日本帝国の継戦能力を本当に奪い取ったのは米海軍の行った通商破壊であり、それによって日本列島に何の資源も流れ込まなくなったという事実そのものである。都市を焼け野原にしようとしまいと、本土への資源還流がストップした時点で戦争を継続する客観的な根拠は失われている*7
原爆投下が終戦に与えた影響をどう評価するか*8によって変わってくるが、政治的・軍事的な果実に比して、民間に与える損害の大きさや道義的価値、戦後の再建に必要な費用*9などを考えれば、とても手放しの成功とは言いかねるものだった。
このため、それ以降の戦略爆撃はより精密化を指向していくことになる。

ベトナム戦争

ヴェトナム戦争中の北爆によって得られた教訓は、「戦略爆撃だけで戦争に勝つことはできない」である。
なんのことはない、これでは第二次世界大戦と同じである。米軍は投入する兵器の質と密度を飛躍的に向上させたのだが、何も状況は変わらなかったということになる。一応、この点では、疑問点も残っている。

軍事的に見て北爆中最も有効だったラインバッカーIIは極めて矛盾した作戦である。北ベトナムを和平交渉のテーブルに着かせるという極めて政治的な目的で行われた作戦でありながら、従来の政治的な拘束を解除して、戦力を集中投入して物量にものを言わせた絨毯爆撃でハノイとハイフォンを破壊し、機雷封鎖を行って外部からの援助を断ち切った。アメリカは国際的な非難を浴びたものの、北越は戦争継続が困難になるほどの大損害を受けたためにパリ和平交渉に応じざるを得なくなった。
だったら、最初から本気でこういう作戦をやっていればどうなったのか、という疑問は残る。アメリカは空軍力で戦争に勝てる可能性を有していたのに、その行使を誤ったがために戦争に負けたのではないかと*10
検証の機会は、18年後にやってきた。

*1:もっとも、最初は航続距離でもペイロードでも航空機を遙かに凌駕する性能を持っていた飛行船がそれを行ったが

*2:本当に大雑把で正確を欠いてますが

*3:たとえば軍需生産力であるとか、交通であるとか、国民の士気であるとか

*4:もちろん戦争は政治の延長だから、つまりこの物言いにどの程度の意味があるかは各自の判断に委ねられているのだが

*5:ルフトヴァッフェがロンドンを空襲しなければドレスデンが廃墟にならなかったというのはナイーヴに過ぎる見方かもしれぬが

*6:そもそも燃料その他に不足していた彼らがそれを手にしていても、使い切れない宝になった可能性も否定できないが

*7:もっとも、国家の首脳部が客観的な根拠に基づいて行動していたら、そもそも戦争は起きてないとも言えるが

*8:原爆を戦略爆撃のカテゴリーに入れていいのかとか、原爆よりもソ連の参戦の方が決定打だったんじゃないのとか、そもそも意志決定システムが機能不全を起こしていて「御聖断」でしか終戦を決断できないような指導部は腹を切って死ぬべきだとか

*9:言うまでもなく、戦略爆撃に必要なコストそのものも莫大なものだった

*10:理論としてはともかく、現実にはもちろんこれは誤りである。アメリカはまともな戦争目的を設定せずに戦争を始めてしまったのだから、どうやっても戦争目的は達成できない。よってアメリカがベトナム戦争に勝つことは最初(いつ?)から不可能である。戦争は戦場の勝ち負けを組み立てて作る政治的な構造物に他ならず、戦争の勝ち負けを決めるのはあくまでも政治である

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