渚《なぎさ》のほうに小さな船を寄せて、 二、三人が源氏の家のほうへ歩いて来た。 だれかと山荘の者が問うてみると、 明石《あかし》の浦から前播磨守《さきのはりまのかみ》入道が 船で訪ねて来ていて、 その使いとして来た者であった。 「源《げん》少納言さんがいられましたら、 お目にかかって、 お訪ねいたしました理由を申し上げます」 と使いは入道の言葉を述べた。 驚いていた良清《よしきよ》は、 「入道は播磨での知人で、 ずっと以前から知っておりますが、 私との間には双方で感情の害されていることがあって、 格別に交際《つきあい》をしなくなっております。 それが風波の害のあった際に何を言って来たのでしょう…