山中湖には鯉がいる。 そりゃもうわんさか棲んでいる。 自慢なのは数ばかりでない。 体格もいい。二貫三貫はザラである。どいつもこいつもでっぷり肥えて、下手をすると五貫に達するやつもいる。 「そりゃちょっと話に色を着けすぎだろう」 永田秀次郎が茶々を入れると、 「いいえ、誓って本当なのです。漁師に訊ねてごらんなさい。肉の厚さに槍が負け、撓んじまったなんて話をたんと聞かせてもらえます」 土地の長者はむきになり、眼を血走らせて言い張った。 永田が東京市長を退いて間もない時分、昭和八・九年ごろの情景である。 (永田秀次郎) 「槍?」「左様。ここらで鯉を獲るのなら、釣り竿なんてとても使ってられません。なに…