狂言演者の野村万作の自伝『太郎冠者を生きる』(白水社1984)を読んだ。伝統芸能の若手育成と日本語教師の養成には共通点がある。 「謡にしても、狂言のことばにしても、口うつしで一句一句教えられる。もちろん正座で一対一で先生と向かい合い、先生が子供と同じような高い、大きな声で発声すると、それを口真似してゆく。こうして弟子は、正しい姿勢での正座、大きな明晰な発声、正確な息つぎを強調されて少しずつ覚えてゆくのである。」P24 「私は、父に教わったとおりのつもりで、右手をさした。ところが本番を見ると、父はその場面で左手をさしているではないか。手をさすなどは些細な、それほど大事なことではないかもしれないが…