第1 本件土地をAに売却した行為に、業務所横領罪(252条)が成立するか。 横領罪と背任罪は、委託信任関係を保護法益とする点で重なり合いが認められ、法益侵害が一つであるから、両罪の関係は法条競合となる。そこで、罰金を選択し得る背任罪よりも法定刑の重い横領罪の成否から検討すべきである。 1 「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務のうち、他人の物の占有を内容とするものをいう。甲は、不動産業者であるから、不動産という財産の占有を反復継続して行っている。したがって「業務」にあたる。 2 「占有」とは、濫用のおそれのある支配力を本質とするものであって、これには、事実的支配のみなら…