216.『心』志賀直哉の場合――時任謙作の呪い 話は脇道へ逸れるが、朝日の新聞小説キャンセル事件について、志賀直哉自身が「創作餘談」で触れているのでそれを紹介したい。そのついでに志賀直哉の文章をいくつか見てみることにする。漱石の人となりを知るのに決して無益ではないと信じるからである。 ちなみに志賀直哉は(学習院の)中学高等学校時代でさえ、教室の中でじっとしていることが出来なくて、学業はトップクラスであったにもかかわらず、操行点が最低で、そのため成績はいつもクラスの中位に甘んじていたという。幼い頃手の付けられない腕白坊主だったとも言われる。これは(漱石と同じく)生みの母親と引き離されたせいである…