高遠弘美氏訳の『失われた時を求めて』(光文社文庫)を、現在刊行されている第6巻まで読み終えたので、続きを誰の翻訳で読んだらいいか決めるあいだに、『セヴィニェ夫人手紙抄』(井上究一郎氏訳、岩波文庫、1943年刊)を読んだ。 セヴィニェ夫人 セヴィニェ夫人(1626年~96年)は17世紀フランスの貴族女性で、本名はマリー・ド・ラビュタン=シャンタル。1644年にセヴィニェ侯爵と結婚したが、夫は決闘の際の傷が元で1951年没。その後は独身をとおした。長女フランソワーズがグリニャン伯爵と結婚し、1671年に夫の任地プロヴァンスに同行したのをきっかけに娘と文通をはじめ、他の人との手紙のやり取りを含めて名…