作家。1953年、京都に生まれる。 早稲田大学大学院文学研究科演劇学修士課程修了後、松竹株式会社に入社。歌舞伎の企画・制作に携わる。 松竹を退職後は、故・武智鉄二に師事し、フリーで歌舞伎の脚色・演出・評論などを手がける。 1997年、『東洲しゃらくさし』で小説家としてデビュー。同年『仲蔵狂乱』(講談社)で第八回時代小説大賞を受賞。その後『非道、行ずべからず』(集英社文庫)、『似せ者』(講談社)がそれぞれ直木賞候補となる 2007年、『吉原手引草』で第137回直木賞受賞。
『吉原手引草』松井今朝子 幻冬舎文庫 吉原手引草 (幻冬舎文庫) 作者:松井 今朝子 幻冬舎 Amazon 137回直木賞受賞作品(2007年上期) インタビューを重ねていって核心に迫っていく手法。 実は最近読んだばかり。『木挽町のあだ討ち』(2023年直木賞)が似ている。 こちらの方が先なんだな。なんだかぼんやりしたところから核心が見えてくるのはやっぱり面白い。葛城って誰だ?なにしたんだ??? 吉原という特別な世界のルールみたいなものがどんどんわかってくるのもこの作品の醍醐味だろう。 ぐいぐい読んでしまう一冊。 ◆歴史もの直木賞 luhana-enigma.hatenablog.com lu…
主人公は桜木治郎。この名で思い出したのは芙蓉の干城(たて)』。この読後印象をご紹介したとき、「桜木治郎は、江戸歌舞伎最後の大作者、三代目桜木治助の孫であり、早稲田大学に勤める教員である。祖父が木挽座・狂言作者の総帥であったことから、木挽座は治郎の幼い頃の遊び場ともなっていた」と記した。これを第1作とすると、本書は桜木治郎シリーズの第2弾になると思う。 本作は「小説すばる」(2021年2月号~2022年1月号)に連載された後、大幅に加筆・修正され、2022年9月に単行本が刊行された。 今回も木挽座の舞台裏で事件が発生し、それを皮切りに事件が続くことに。桜木治郎は結果的に築地署の薗部刑事に協力して…
初代市川團十郎の歌舞伎役者人生を描くとともに、二代目團十郎が己の芸風を確立するまでを点描風に描き加えるた時代小説である。「オール讀物」の2019年2月号から2020年3・4月合併号に連載され、2020年4月に単行本が刊行された。 この小説の最後の章名が「江戸の夢びらき」。その冒頭は正徳4年(1714)11月の堺町中村座・顔見世狂言で二代目市川團十郎が『万民大福帳』の舞台を演ずる場面を描く。 その場面の末尾に次の一文が記されている。「文字通り日の出の勢いを得た役者は冬至間近の長くて暗い芝居の夜を終わらせて、醒めない魘夢をみごとに開いてみせたのであった」と。「醒めない魘夢をみごとに開いてみせた」と…
この小説は「小説すばる」の2017年7月号~2018年6月号に連載後、大幅な加筆・修正が加えられ、2018年12月に単行本が出版さた。久しぶりに著者の作品を読んだ。 本を手に取る切っ掛けになったのは「干城」というめずらしい語句に惹かれたから。 本書では「干城」に「たて」とルビをふっている。手許の広辞苑をはじめ数冊の国語辞典を引くと、「かんじょう」という見出しでこの語句が載る。中国の『詩経』の周南に出てくる語句だと言う。干(=盾・楯、たて)と城の意であることから、国家を守護する武士、戦士、軍人を意味するという説明がある。用例として「国家の干城」が挙げられている。 この言葉は、この小説の中心人物と…
本書は十返舎一九の伝記小説。歴史年表を見ると、江戸時代享和2年(1802)に「東海道中膝栗毛」と記載されている。 本書のエピローグを読んで目から鱗。というのは、年表記載の作者名・作品名を学生時代に暗記した以外は、弥次さん、喜多さんの名コンビによる珍道中記という伝聞情報で部分的に内容を理解していたに過ぎなかったからだ。 なんと、享和元年正月に、一九は『浮世道中膝栗毛』という江戸から箱根までの道中記を出していたという。その主人公が弥次郎兵衛と北八であり、作者一九は「駅々風土の佳勝、山川の秀異なるは諸家の道中記に精しければ此に除く」と宣言して、風景描写はほとんどなしに、二人の登場人物が繰り広げる滑稽…
今年2月に『吉原手引草』と『仲蔵狂乱』を立て続けに読んで以来、この作家の小説を興味にまかせた順番で読み進めてきた。これが15冊目になる。 (gooブログで「遊心逍遥記」を開設してからは、本書が最初に読了したもの。)登場人物の筋からすると、歌舞伎物の系譜だがちょっと脇道にそれた謎解き小説といえる。 「家、家にあらず」というタイトルは、世阿弥の『風姿花伝』(『花伝書』)の第七「別紙口伝」中、最後から二つ目の条に記された文言が引用されている。世阿弥は能の伝承の観点で述べているが、著者はそれを武家大名の「家」というものに重ね合わせ、さらに大名屋敷の奥御殿に住む女たちの世界における「人」に重ねて合わせて…
書名:料理通異聞 著者:松井今朝子 出版社:幻冬舎 出版年:2016年 この本は、江戸時代後期の名料亭「八百善」をつくりあげた主人公、善四郎の一代記です。祖先は八百屋で、父親は江戸山谷で「福田屋」という精進料理店を営んでいました。その跡取りが善四郎です。 善四郎は、多くの人々が集まる法要の膳を請け負って成功させ、世間の評判を得ます。やがて文人墨客や身分の高い武士も集まる料亭に発展します。料理素材の吟味や調理技術も群を抜いていますし、有名人や目上の方々とのコミュニケーション力にも長けていました。 大名家祝宴キャンセルのエピソードが事業発展の契機になったと、僕は思います。 善四郎は、ある大名家から…