厨房には、降りつもる雪のように、打ち粉が一面に残っていた…… 「水まわしを一回にできないだろうか…… 」 何回蕎麦を打っただろうか。 10年以上毎日やってきたが、まだ一度も満足できる蕎麦は打てなかった。 森田司は38歳。2歳年下の敏子と結婚したばかりである。 蕎麦屋で打ち方を修行して、自分の店を出す準備をしている。 敏子には、 「一緒に蕎麦屋をやっていこう」 とプロポーズした。 子どもができたら、蕎麦の打ち方を教えたい。 そのためにも、満足がいく最高の蕎麦を打てる職人にならなくてはならない。 蕎麦の工程の、最も重要なポイントである水まわしで、つまづきを感じていた。 「蕎麦の出来不出来は始めの2…