1919年(大8)大川屋書店刊。みやこ文庫第16篇~第17篇『後の江戸ざくら』全2巻。大政奉還から明治維新にかけての近代日本における大変革期を生きる人々の生き様を描いている。武家社会の崩壊は俸禄という経済基盤を失うことで多数の士族や雇人たちが路頭に迷うことでもあり、明治初頭には各地で不平士族の反乱が起きた。歴史上実在した人物、例えば思案橋事件の永岡(小説上は長岡と表記)久茂や竹村俊秀も主要人物として登場する。また当代随一の美人と称された陸奥亮子も芸者の小兼としてヒロインお蝶を危機から救う。話の展開が巧みで、作者黙禅は才腕を発揮しているが、侍たちが旧体制の衰亡とともに消え去るしかなかったことが、…