一章 黒板塀の裏木戸、師走の風が運ぶ静けさ 師走の風は、どこかひりりと肌を刺すようでござんす。深川黒江町の深川堀を渡る潮風が、黒板塀の表面をさらりと撫でていく。あっしの仕舞屋は、その黒板塀に囲まれた、瀟洒でありながらも控えめな家でございやす。吉原みてぇな派手な格子なんぞ、うちには似合いやしません。辰巳の女の粋は、隠してこそ光る──それがあっしの看板でございます。今宵のあっしは、墨色の地に雪輪と南天を散らした縮緬の小紋。帯は深紅の博多帯、帯留めには白瑪瑙の雪輪。師走の冷たさに負けぬよう、黒と紅で芯を通した出で立ちでございます。裏木戸をそっと開けてもらいやすと、すぐそこが母屋の縁側。飛び石の周りに…