「薄暮」は2009年7月日本経済新聞社より出版された。のち改題されて「沈黙の画布」2012年8月新潮文庫に収められる。 ミステリー小説である。 農村で絵を描き続けた無名の画家が、死後、幾つかの偶然を経て知名度を上げていくお話だ。そこに画家の妻の承認欲求と、絵を所有する郷土の小金持ち達の欲、本物と偽物を織り交ぜて売買する画商の欲が、物語をミステリーにさせている。 美術出版社の事情、絵画取引の事情がよく調べられて書かれている。それが小説に臨場感を与えている。 読み始めた時に予想したことは、郷土の小金持ち達が、幻想の画家を皆で作り上げ、各自が持つ、その画家が描いたという嘘の絵の値段を吊り上げるために…