花の春、紅葉の秋は、東西南北に名だたる勝景の地ありて、「賀茂川」 銘酒の樽とともに、人の心を奪い、京女、商人のよき衣 着たるは、他国に異にして、京の着倒れの名は、ますます西陣の織元より出、染め色の花やぎたるは、堀川の水に清く、釜もとの白粉、川端の「ふしのこ」(お歯黒)は、ゆきをあざむき、御影堂の扇、伏見のうちわに、風匂う革堂前の粽、円山かるやき、大仏餅、醍醐のウド芽、鞍馬の木芽煮は、『庭訓往来』にいちじるく、東寺の蕪、壬生の菜は、名物選にはなたかし。 名産品の数多ある都に、たまたま入り込んだ弥次郎兵衛-喜多八。京の遊所地-五条新地で一杯機嫌に、早のみ込みして丸裸となりたる、喜多八(着た八)の名…