1930年(昭5)新潮社刊。新興芸術派叢書10。表題作の他、短篇13篇所収。作者は大正から昭和初期にかけての新興芸術派の一人としてモダニスム(=都会における風俗習慣や生活様式の現代化)風景を斬新な感性で描いている。当時の唯物論思考の流行によるものか、即物的な感情に左右されて行動する男女は、自己方向性が見えず、かえって俗物的な心情が目立つ気がする。特に女たちの積極的な行動に対して男たちが衝動的に反応する場面が多いのに気づかされる。自伝的な要素として教会関係者の言動が各篇の所々に出てくる。また踏み込んだ愛情描写には多く伏字xxが用いられ、それが想像力を搔き立てる点ではむしろ大きな威力を感じる。全般…