人の世を 哀れときくも 露けきに おくるる露を 思ひこそやれ 〜人の世の無常を この菊の花の聞くにつけ涙がこぼれます。 先立たれなさった貴方は、 どんなにか涙にくれていらっしゃるかとお察しいたします。 【第9帖 葵 あおい】 夜は帳台の中へ一人で寝た。 侍女たちが夜の宿直におおぜいでそれを巡ってすわっていても、 夫人のそばにいないことは限りもない寂しいことであった。 「時しもあれ 秋やは人の別るべき 有るを見るだに 恋しきものを」 こんな思いで源氏は寝ざめがちであった。 声のよい僧を選んで念仏をさせておく、 こんな夜の明け方などの心持ちは堪えられないものであった。 秋が深くなったこのごろの風の…