米の山形、山形の米。果てなく拡がる稲田の美こそ庄内平野の真骨頂。 古来より米で栄えたこの土地は、また米作りに画期的な進歩をもたらす人材をも育んだ。 加藤茂苞(しげもと)がいい例だ。 大正十年、日本最初の人工交配による品種、「陸羽132号」を創り出し、やがて「コシヒカリ」や「ササニシキ」へと派生してゆく壮大な系譜を拓いた人物。 紛れもない東北農業の大功労者、わが国品種改良の父。そういう男が庄内藩士の長男として生まれたことは、あんまりにも順当過ぎて天の作為を感じたくなる。 まあ、それはいい。 今回重要となる情報は、この加藤茂苞農学博士の経歴中に「朝鮮総督府」の五文字が見出せることだ。 昭和三年から…