『災間の唄』/小田嶋隆/武田砂鉄編/サイゾー/2020年刊 持ってきたと思っていたのに、引越し後に出てこなかった本の一つが阿佐田哲也の『麻雀放浪記』だ。2011年の春に全四巻を一気読みした思い出がある。地震と津波と原発事故を巡って、「自粛」と「風評被害」と「つながろうニッポン」という言葉をよく見かけたあの頃、私は超ロングセラーの一大娯楽小説をどっぷり読み耽った。敗戦後の復興期に博打の道で生き死にするアウトローたちに、妙な親しみを感じながら。 大変なことが起きたときは、私も一応、誰かの役に立ちたいとか真っ当なことを言いたいと思う。思うけれどもあれこれと足踏みをして、そのうち自分の心を守る手段だけ…