煙の国のアリス 「ごきげんよう」 グレースケールの都会の喧騒に塗れた雑居ビルにぽっかりと空いた穴の中で、フリフリ服のアリスは煙を吐きながら微笑んだ。アリスの微笑みに誘われるように、僕は穴の中に吸い込まれていった。薄暗い穴の中は、クルクル光る薔薇に照らされ、いくつもの歪んだ時計がバラバラの時間を示していた。 「なんでもない日をお祝いしましょう」 アリスが持ってきたのはアールグレイと、水タバコだった。フリフリ服のアリスがアールグレイをアザレアのようなティーセットに注ぐその姿は、風に揺れるライラックそのものだ。アールグレイを口に含むと、極彩色の香りが鼻腔を支配した。歪んだ時計がきりきり回る。いつの間…