ゴールデンウィーク最終日の夜。 街は、明日からまた“通常運転”へ戻る準備をしていた。 駅のホームには、大きなスーツケースを抱えた家族連れが疲れた顔で列に並び、 アパレルショップの店頭には、「GW最終日セール!」の文字がむなしく点滅していた。 居酒屋の看板には“連休お疲れ様!”の文字。 誰もが、名残惜しさと諦めを背負いながら、歩いていた。 ──そんな空気を避けるように、安見手 眠流(やすみて ねむる)は細い裏路地のバーに身を隠していた。 常連でもなければ、予約していたわけでもない。 ただ、会社員としての顔を取り戻す前に、ほんの少しだけ逃げ場が欲しかった。 古びた木製の扉を押し開けると、鈍いカウベ…