大正時代、円本の普及と共に、大衆受けは良いが、世俗的で品性の低い、文学的価値の乏しいテキストが大量に出回った。既存の作家達や、円本のような作品を卑しむ人々により、今までの文学はそういう大衆文学とは一線をかくしたジャンルであるとされ、それは純文学と名付けられた。もっとも、そうは言え、既得権益を守るために作った組合みたいな側面も多分にあった。 (こっちのほうがまとまってていいと思います)
「好きなのに、さびしい」——このどうしようもない感情の渦に、あなたも飲み込まれた経験はないでしょうか。今回ご紹介する大前粟生さんの『きみだからさびしい』は、まさにそんな恋愛の核心を突く物語です。 主人公は、恋愛に臆病な青年・圭吾。彼が好きになったのは、複数の人を同時に愛することができる「ポリアモリー」の女性、あやめでした。好きだからこそ生まれる独占欲や嫉妬心と、相手を理解したいという思いの間で揺れ動く圭吾の姿は、読む者の心を強く揺さぶります。
想田佑介は、いつも自分ばかり叱られているような気がした。周囲とまったく同じようなことをしているつもりなのに、いつだってなぜか自分だけが叱られる。しかもそのときの台詞は、なぜかいつも決まっているのだった。 つい先日もそんなことがあった。早めに出社して会議室へ赴き、人数分の資料をデスクの上へあらかじめ配置していると、二番目にやってきた先輩社員の島村が、想田の肩を叩いてこう言った。「お前、そういうとこだぞ」 しかし想田には、何を叱られているのかがわからなかった。もしかすると、この資料を配付する行為をやめろと言われているのかもしれないが、会議に必要な資料なので配らないというわけにもいかない。それにそれ…
芥川賞作家・田中慎弥が描く、初の本格恋愛小説『完全犯罪の恋』。主人公は、携帯もPCも使わない、四十代の作家「田中」。この設定に、多くの読者は著者自身の姿を重ね、物語の世界へと引き込まれていくでしょう。 しかし、本作は単なる私小説ではありません。40代の作家「田中」の前に、高校時代の初恋相手の娘「静」が現れることから、物語は過去と現在、そして文学の世界を往来する、切なくも美しい追憶のミステリーへと発展していきます。 「完全犯罪」という不穏なタイトルが示す恋の結末とは?
この小説は、あなたの倫理観を根底から揺さぶるかもしれない 今回ご紹介するのは、岸川真さんの短編小説『蹴る』です。この物語は、2015年に文芸誌『文藝』で発表され、後に作品集『暴力』に収録されました。タイトルが示す通り、本作が描くのは、ひたすらに生々しく、そして目的が見えない「暴力」そのものです。 物語は、主人公である中学生の康平が、先輩のケンと共に、夜の河川敷で一人のサラリーマンに暴行を加える場面から、不穏な幕を開けます。読者は、康平の視点を通して、まるでその場にいるかのような息苦しさと、得体の知れない恐怖を味わうことになるでしょう。しかし、この物語の本当の恐ろしさは、単なる暴力描写に留まりま…
「夏は八月の十五日まで。海にクラゲがでたら、夏は終わりなのよ」 もし、あなたの17歳の夏が、あと一週間で終わるとしたら、何をしますか?伊藤たかみさんの『17歳のヒット・パレード(B面)』は、そんな終わりかけの夏に偶然出会った少年と少女の、短くて、でも永遠のような数日間を描いた物語です。 どこか懐かしくて、少しだけ危うい。そんな青春時代の特別な空気感が、この本にはギュッと詰まっています。ページをめくるたびに、あの頃の夏の匂いがよみがえってくるような、不思議な魅力を持った一冊です。
自分が書いてるもののジャンルに悩む。 あわせてよみたい 自分が書いてるもののジャンルに悩む。 おはようございます。今日も例によって創作地獄にどっぷり浸かってるわけだけど、これがまたなんとも言えず楽しい。自分でも思うんだけど、最近の僕はかなり危ない人に見えるんじゃないか。ふと気付くとニヤニヤしてるし、1日中、頭の中で自分だけの世界が膨らみ続けてる。これはもう、周囲から見れば立派なヤバい人認定だろうなと思う。 でもね、こういう状態って、人生の楽しみのひとつだと本気で思ってる。創作って、結局自分がいかに夢中になれるかが全てだし、むしろこの楽しさを増やすために、創作以外の時間も使っていいんじゃないかっ…
大手出版社の最終候補に複数回残りました。出版社の賞レースが望む作品ではなく、好きな作品を書いてたら、時間があっという間に経っていきました。その作品をネット販売すると、無広告で数百万円の利益が出ました。 それにしても、あっという間の時間の流れ、時間って本当に扱いにくいコです。時間はいうことを訊きません。時間は待ってもくれません。時間は平等です。時間しか平等ではありません。でも人生は不公平です。世の中の通過が、お金じゃなくて、時間になるのだとしたら・・・あなたはどんな仕事をしたいですか?
藤野可織さんの短篇集『おはなしして子ちゃん』を読み終えました。以前読んだ『ドレス』を読んで興味を持った作家さんです。『おはなしして子ちゃん』もその世界観に一気に引き込まれてしまいました。この短篇集には、私たちの日常のすぐそばに潜む、少しだけ歪んだ、あるいはゾッとするような出来事が詰まっています。読んでいると、まるで現実と非現実の境界線が曖昧になっていくような不思議な感覚になります。
かわいーと、かわいそーはにている。 藤野可織『来世の記憶』(KADOKAWA 2020年)の話をさせて下さい。 【あらすじ】 「前世の記憶」:DVおっさんの来世。 「眠りの館」:友達との宅飲みのなか居眠り。 「れいぞうこ」:小学生の間で冷蔵庫に入って眠ることが流行。 「ピアノ・トランスフォーマー」:ピアノの才能を持つ子供が突然ピアノに変態。 「フラン」:19歳の時の私は。 「切手占い殺人事件」:女子高生の間で切手を集めることが流行って、JKが死ぬ。 「キャラ」:そういうキャラって、私を決めつけないで。 「時間ある?」:サンスペリアが密に呼吸をしています。 「スパゲティ禍」:ある日人が突然スパゲ…
大好きな小川洋子先生の本を、改めて読み返してみようと思い、まずはデビュー作である『完璧な病室』から再読しました。 完璧な病室 (中公文庫) 作者:小川洋子 中央公論新社 Amazon 収録されているのは、「完璧な病室」「揚羽蝶が壊れる時」「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」の4編。それぞれ全く異なるテーマを持ちながらも、小川先生ならではの静謐で美しい文章に貫かれていて、心がじんわりと癒されるような読書体験でした。 一つひとつの言葉がとても丁寧に紡がれており、「一語も読み落としたくない」と思わせてくれるような文章ばかり。読み進めながら、「あ、この表現、素敵」と思うたびに付箋を貼っていたら、気…