作家。1962年、岡山生まれ。早稲田大学卒。 1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞受賞。1991年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2004年「博士の愛した数式」で読売文学賞・本屋大賞受賞。同年「ブラフマンの埋葬」で泉鏡花文学賞(第32回)受賞。2006年「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞受賞。 主な作品に「シュガータイム」「密やかな結晶」など。静謐で透明感のある文体が特徴。
☆ 小中学校は夏休みまであと2日。既に短縮授業で、昼過ぎには下校中の子どもたちと出会う。 ☆ 塾では、来週から夏期講座が始まる。平日だけだがおよそ5週、25日間。夏バテせずに走り切りたい。 ★ さて今日は、小川洋子さんの「まぶた」(新潮文庫)から「バックストローク」を読んだ。 ★ ナチス・ドイツ時代の収容所を訪れた主人公の女性。彼女が目にしたのは、水が乾いた古いプールだった。かつて収容所の家族がそこで水浴びを楽しんでいたという。プールサイドからは、あまりにも粗末な処刑場も見える。 ★ プールを見ると、女性はかつて背泳ぎで記録を塗り替えた弟を思い出す。 ★ 弟は四六時中、水につかり、たまに水から…
物語よ、静謐に。 柴田元幸編『短篇集』(ヴィレッジブックス 2010年)の話をさせて下さい。 【概要】 この本に収められている短編の大半は、雑誌『モンキービジネス』の依頼を受けて、それぞれの作者が書いてくださったものである。それ以外の作品も、『モンキービジネス』に載った作品そのものではないけれど、やはり『モンキービジネス』登場歴のある作者が書き下ろしてくださった作品である。p.246 編者あとがきより クラフト・エヴィング商會 誰もが何か書く仕事を持っている、私とわたしの猿以外は 戌井明人 植木鉢 栗田有起「ぱこ」 石河美南 物語集 Comes in a Box 朝の記憶 小池昌代 箱 円城塔…
小川洋子『最果てアーケード』 今日は読書の話題です。最近読んだ小川洋子の短編集2作について。この前読んだ短編集『海』がとてもよかったので、続けて読んでみた。 1冊目は『最果てアーケード』。連作短編集で、20ページほどの話が10編並ぶ。 物語の舞台は、町の片隅に取り残されたように存在している「世界で一番小さなアーケード」。そこには使用済みの絵葉書やレースの切れ端、義眼、ドアノブといった、誰が買うのかといった品ばかり取り扱う店が集まっていて、それらを必要とする人々がやってくるのを待ち続けている。物語の語り手の「私」は、それらの店の品物をお客の元に届ける配達係をしていて、ふだんはアーケードの突き当り…
1、作品の概要 『余白の愛』は小川洋子の長編小説。 1991年に福武書店より単行本が刊行された。 2004年に中公文庫より新装文庫版が刊行された。 234ページ。 耳を病んだ「わたし」と速記者Yの、現実と記憶の狭間で語られる物語。 2、あらすじ 「わたし」は夫と離婚後、耳を病んでしまって長く入院生活をしていた。 雑誌のインタビューで知り合った速記者のY。 美しい指を持つ彼の虜になり、次第に親密な関係になっていく。 消えてしまった『十三歳の少年』、ベートーヴェンの補聴器を展示していた博物館、屋敷とジャスミンの間・・・。 現実と記憶が入り混じり、意識は虚構へと揺蕩っていく。 余白の愛 (中公文庫)…
「大好きな小川洋子先生を再読しようキャンペーン」第2冊目は芥川賞受賞作『妊娠カレンダー』。表題作を含む三篇が収録された短編集です。 👇第1冊目『完璧な病室』の感想はこちら book-neru.hatenablog.com 妊娠カレンダー (文春文庫) 作者:小川 洋子 文藝春秋 Amazon どの作品も、どこか不気味で、でもやはり美しい――そんな小川洋子ワールド全開の短編集。今回は、数年前に読んだ時とは全く違う読後感を味わいました。 特に表題作『妊娠カレンダー』は、出産を経験した今だからこそ、以前は理解できなかった姉の奇妙な行動が、少しずつ腑に落ちるように感じられました。 妊娠中のつわりや体の…
☆ 2000円の備蓄米が話題になっている。早速売り出した某通販サイトはアクセスが集中してつながりにくい。 ☆ 私は炊き立てのご飯が好きだから、少々値が張っても、おかず代をケチってでも銘柄米を食べ続けたい。 ☆ でも古古米だか、古古古米(誰かは家畜の餌直前といったが)だか、どんな香りや味がするのか興味はある。炒飯など加工すれば気にならない程度なのか。古い素麺のような香りなのか。 ★ さて今日は、小川洋子さんの「まぶた」(新潮文庫)から、「匂いの収集」を読んだ。 ★ 世の中にはいろいろな収集癖の人がいる。中には金持ちの道楽の類(コレクション)もあるが、その人にしか価値がわからないものもある。 ★ …
小川洋子『海』 今日は読書の話題です。最近読んだ本3冊の感想。 1冊目は小川洋子の『海』。160ページほどの中に、掌編も含めた短編小説が7編収録されている。20年くらい前の短編集だ。 巻末に収録されている作者のインタビューがよかった。小川洋子という作家を理解する上で、なるほどと思われることが多かった。例えば小説を書くのは妄想にひたっているようなもので、長編は「長い妄想」で短編は「短い妄想」といったこと。また、求めている文体は「むかし誰かから聞いた話を読んでいるような錯覚を起こさせる文体」といったことなど。各作品の登場人物に関する作者自身のコメントもおもしろかった。それから、千野帽子さんの解説も…
大好きな小川洋子先生の本を、改めて読み返してみようと思い、まずはデビュー作である『完璧な病室』から再読しました。 完璧な病室 (中公文庫) 作者:小川洋子 中央公論新社 Amazon 収録されているのは、「完璧な病室」「揚羽蝶が壊れる時」「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」の4編。それぞれ全く異なるテーマを持ちながらも、小川先生ならではの静謐で美しい文章に貫かれていて、心がじんわりと癒されるような読書体験でした。 一つひとつの言葉がとても丁寧に紡がれており、「一語も読み落としたくない」と思わせてくれるような文章ばかり。読み進めながら、「あ、この表現、素敵」と思うたびに付箋を貼っていたら、気…
★★★☆☆ あらすじ 母親と経営するホテル・アイリスで働く女は、商売女に暴力を振るう中年の男性客に強い関心を抱くようになる。 www.youtube.com 永瀬正敏、陸夏、寛一郎ら出演。小川洋子の小説「ホテル・アイリス」が原作。100分。 感想 ホテル・アイリスで働く若い女が主人公だ。ホテルの名前はギリシア神話の「虹の女神」を意味し、「虹」にはあの世とこの世をつなぐ橋の意味がある。また、まるであの世のメタファーのような、干潮時に歩いて渡れる小さな島も登場する。映画全体に生と死の気配が濃厚に漂う物語だ。 主人公は、ホテルで商売女に暴力を振るっていた中年男に強く惹かれる。そして彼の後をつけ、やが…
こんにちは。よろしくお願いいたします📚 今回ご紹介する本はこちら! 博士の愛した数式 小川洋子著 博士の愛した数式(新潮文庫) 作者:小川洋子 新潮社 Amazon 第1回本屋大賞を受賞された作品です。 家政婦として働く主人公の目線で物語は語られます。 派遣された先の家の主人は数学博士なのですが、記憶が80分しか持ちません。 忘れてはならないことを思い出すよう、背広にメモをクリップで止めています。 この奇妙な数学博士。とっても変わっているのですが、とても優しい。 家政婦の息子√ルートとあだ名を付けられとても可愛がってくれます。 やがて√ルートが大人になり、老いてゆく博士。 博士から影響を受けた…