渡辺淳一の伝記小説に『君も雛罌粟われも雛罌粟』という、与謝野晶子と鉄幹夫妻を書いた作品がある。雛罌粟(コクリコ)とは雛罌粟のことである。晶子は明治45年5月5日、新橋駅から夫、寛の待つフランスへ旅立った。シベリア鉄道を経由して、19日にパリに到着する。半年ぶりに夫と再会した喜びを、その燃えるような赤色に託して「ああ皐月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟われも雛罌粟」と詠んだ、実に素晴らしい歌だ。出産を11回経験し、『新訳源氏物語』を著し、万を超える歌を詠んだ。現代では子供ひとり育てるのも大変だと言われているが、この超人的スーパー・ウーマンをどう理解したらいいのか。ちょっと今の世では考えられない女性…