「箱男」は、1973年に新潮社より上梓された安部公房の作品で、今般私は、後に文庫化された版で読んだ。 その前著、「夢の逃亡(1968年)」まではコンスタントに作品を発表してきた安部公房だが、上の刊行年と比較すれば分かる通り、両者の間には実に5年の間隙が横たわっている。 この時間幅だけではなく、執筆量の点でも、原稿用紙300枚ほどの完成作に対して、草稿は3000枚以上に上ったというから、「箱男」はこの才人にして相当な苦心を強いられた一作なのであろう。 物語は、そのタイトルが示す通り、大きなダンボール箱を頭から被って上半身を覆い、そこに開けた覗き窓から外界を見ながら街を彷徨い生活する「箱男」の手記…