(おときち)1922年(大11)聚英閣刊。当時屈指の流行作家とされた三上の初期の頃の長篇小説である。若い男女の逢引きの場面から始まる。青年は富豪の息子、娘は親の金銭の不始末から身売り同然の結婚を迫られていた。息子は彼女を助けるため金策に走るが、行き詰まって家の金を盗み、殺人の嫌疑も受ける。物語はどん底の状態で放免になった青年の復活劇と共に、不幸な結婚を強いられた娘の自殺未遂から人生への光明を再び見出すまでを描いている。巻末の余白に鉛筆で落書きがあって「三上って野郎の文章は相変らず下手糞だ」と書いてあった。文体は悪文ではないと思うが、確かに構成上、偶然や僥倖の要素が多すぎる気がした。しかし最後ま…