今日は、なんだか胸の奥がきゅっとなった一日だったんだ。 いつものように、母ちゃんがベランダで洗濯物を干してて、ぼくはそのそばでゴロン。春の風がふわ〜っと流れて、なんともいえない匂いが鼻をくすぐったんだ。 その匂いを嗅いだ瞬間、ふと、思い出した。 ――まだ、ぼくが母ちゃんの家に来る前のこと。小さな段ボール箱の中で、母猫と兄弟たちとぎゅうぎゅうになって眠ってた。あったかくて、狭くて、でもすっごく安心できる場所。母猫が毛づくろいしてくれるのが大好きだった。兄弟たちとじゃれあって、耳をかじったり、おなかに飛び乗ったりして、喉をゴロゴロ鳴らしてた。 けど、ある日突然、大きな人の手がぼくたちを運んだんだ。…