「雀《すずめ》の子を犬君《いぬき》が逃がしてしまいましたの、 伏籠《ふせご》の中に置いて逃げないようにしてあったのに」 たいへん残念そうである。 そばにいた中年の女が、 「またいつもの粗相《そそう》やさんが そんなことをしてお嬢様にしかられるのですね、 困った人ですね。 雀はどちらのほうへ参りました。 だいぶ馴《な》れてきてかわゆうございましたのに、 外へ出ては山の鳥に見つかってどんな目にあわされますか」 と言いながら立って行った。 髪のゆらゆらと動く後ろ姿も感じのよい女である。 少納言の乳母《めのと》と他の人が言っているから、 この美しい子供の世話役なのであろう。 「あなたはまあいつまでも子…