「芙蓉の花が咲いたわよ」と、庭の手入れを受けもっている女将からうれしそうに声をかけられたのは一昨日のことだった。 「芙蓉ですか」と、その花の姿かたちをすぐに頭に浮かべられないぼくは、間の抜けた慎重な返事をする。 撫子の花が咲きました芙蓉の花は枯れたけど 芙蓉の花と聞いてまっさきに頭に浮かんだのは、かなり古いさだまさしさんがまだクレープで活動していたときの「追伸」の歌詞だった。よくよく考えれば、芙蓉もそうだけれど撫子の花もよくは知らない。 「そう、真っ白な花が咲いているから見てきなさいよ」 女将に催促されて、ぼくはその花を見た。思ったよりも大きな花だった。こぶし大とでも言うべきだろうか。これが芙…