『知と愛』の原題は「ナルチスとゴルトムント」ですが、翻訳者でヘッセ研究の第一人者でもある高橋健二氏によって、現在の邦訳名になっています。また、本作が刊行される前に雑誌で連載されている頃は「友情の物語」という副題が付いていたこともあり、神学者で思索家でもあるナルチスに知を、芸術と放浪に生きるゴルトムントに愛を象徴させ、両者の友情を描いた物語として解説されています。 しかし私は今回、『ガラス玉演戯』と結びつけたいという思いもあり、訳者とは別の主題を見つけて考察しています。 ”すなわち、芸術は父の世界と母の世界との、精神と血との結合であった”ーP.201 このとき、「父の世界」とはキリスト教的秩序と…