明治の終わりも近いころ。東京高等師範学校附属小学校尋常科にて、とある教師が生徒の知識を試すべく、こんな問いを投げかけた。 曰く、 「地球上で一番大きな魚は何か、諸君は答えられるかね」 たちまち挙手するやつがいる。 指名されるなり黄色い声を張り上げて、自信たっぷりに少年は言った、 「はい先生、クジラです」 と。 「それで宜しい」 教師は鷹揚に頷いた。正解を得て、少年は鼻高々だ。円満な空気が教室に満ちた。 「先生、間違っておられます」 ところがその円満に、横槍がぶすりと入れられる。 同調圧力を跳ね除けて、自己の信じる「正しい知識」を呈しにいった、うら若き一人の勇者によって――。 「クジラは哺乳類で…