それはともかく、伯父の作品の根底には、すべてとは言わないまでも、ことに長編の場合、「天下国家のより良いあり方」を志向する傾きがあった。現代風に言うと「公」への意識があって、つねに「公」と「私」のかね合いが頭にあったようだ。その意味で「私」のみを善しとしがちな戦後的価値観には距離をおいたように思われるのである。武士の生き方を描くにしても、現代の二者択一的な「私」最優先の生き方を念頭に、武士の自己抑制的な道徳の意味するものを噛み砕いて説くといった感じであった。(山内健生『新装版 私の中の山岡荘八 思い出の伯父・荘八』展転社、2023) おはようございます。平野啓一郎さんの『三島由紀夫論』といい、秋…