運命の車:山田風太郎 1959年(昭34)桃源社刊。 明治時代の歴史的事件の中に、訪日中のロシア皇太子が警察官に刀で切りつけられるという大津事件があった。その犯人を真っ先に取り押さえたのは一行を乗せていた人力車の車夫の二人だった。事件後、彼らは日露両国から勲章を受け、ロシアからは莫大な終身年金をおくられることとなり、「帯勲車夫」と賞賛された。 この小説はこの歴史上実在した二人の人物のその後の人生を描いたものである。なまじっか働かなくても一生安楽に暮らして行ける境遇となった男たちの、一人は生来のどうしようもない性行を改めようとしても変えられず、放蕩三昧で破滅する人生を送り、他方は(これは創作の要…