1902年(明35)井上一書堂刊。明治犯罪史上、大賊の「稲妻強盗・坂本慶次郎」として知られる人物は、1899年(明32)2月に逮捕され、1900年(明33)2月に処刑された。講談師春廼家朗月はその人物の氏名を高本貞次郎にもじり、枚挙にいとまがない犯行の数々の中から物語風に脚色しつつ、無期徒刑で送られた北海道の集治監からの脱走をはじめ、小樽、函館、青森、一ノ関、仙台、塩原、茨城、埼玉、東京など各地での詐欺、強盗、狼藉などをいとも易々と繰り返していく様を語っている。犯罪の連続だけを追っていけば気色が悪くなるが、それを説教じみた語り口で散らしたり、貞次郎が好んで詠んだ和歌の紹介などで、単なる犯罪実話…