1897年(明30)駸々堂刊。探偵文庫第一編。明治25年からの10年間は明治期の探偵小説の一大ブームが到来し、東京の春陽堂、大阪の駸々堂などが「文庫」「叢書」などのシリーズを組んで盛んに出版していた。奇しくも英国でホームズ物が発表された時期に重なる。日本の探偵小説は黒岩涙香が翻案していたフランスの新聞小説(フィユトン)の探偵奇談の要素が強く、まだ本格推理には至らなかった。 作者の島田柳川(りゅうせん)は生没年不明だが、尾崎紅葉の硯友社の一員として活動していた。駸々堂からの一連の探偵小説シリーズに筆名を柳川、美翠(びすい)、小葉(しょうよう)などと変えながら多くの作品を書いた。言文一致体が定着す…