薔薇夫人:竹田敏彦 1952年(昭27)向日書館刊。 1957年(昭32)東方社刊。 旧華族の邸宅を買い取って高級中華料理店「薔薇園」を営む女主人の葉山貴志子の謎めいた行動が興味を引く。しかしながら物語はいきなり戦前の中国に舞台を移す。青島で日系のマッチ会社の社員瀬田荘吉は仲間の姦策によって匪賊に囚われ、山中の巌窟で苦渋の日々を送ることになる。この部分はデュマの「モンテクリスト伯」いわゆる「巌窟王」に似せている。翻案的な骨格でありながらも、作者の描写は丹念で迫真的であり、興味が衰えることはなかった。姦策を巡らした青木兄弟はさらに瀬田の美人妻貞江や娘貴美子までも翻弄する。脱獄に成功した瀬田は財宝…