帰り道、ずっと黙り込んでいたヤスが意を決したように口を開いた。 「ジェム、頼みがあるんだけど」 僕とフレッドはその足で岡部家に向かった。 「あら、二人とも久しぶりね?」 笑顔のユミコが、出迎えてくれた。 ユミコの淹れてくれたお茶で喉を潤すと、Club1000 でのライブの話を切り出し、ヤスの出演許可を求めた。 「そう、あの Club1000 で……」 ユミコは感慨深げに頷くとソファに沈んでいる、神妙な面持ちの息子を見つめた。 ユミコの意外な反応に僕は意表を突かれて尋ねた。 「Club1000 を、ご存知なんですね?」 「まだ結婚する前、ロンドンに来た時、主人と何回か行ったことがあるのよ。あそこ…