海が大好きだったあの人と 別々の道を歩むことになったとき、 わたしは遠くへ引っ越すことにした。 2人が暮らした海辺の町は どこへ行ってもあの人との思い出が蘇り、 辛くて前に進めないから。 再出発の地は、川と里山が近くにあるのどかな町。 鳥のさえずりを聞きながら土手を走ったり、 里山に登ったりしているうちに、 心の傷がだんだんと癒えていく。 ある日、近くの里山に登って 目の前に広がる風景を写真に収めようとしたけれど、 なかなか構図が決まらず悩んでいたら、 後ろから声がした。 「写真、撮りましょうか。」 振り向くと、そこには登山にしては軽装の男性が。 風景写真だけでよかったのだが、 彼の親切心を拒…