たぶん、おそらく、十中八九、畸形嚢腫なのだろう。 にしてもなんてところに出来る。 時は昭和五年、秋。山口県赤十字病院は佐藤外科医長執刀のもと、二十一歳青年の睾丸肥大を手術した。 (Wikipediaより、山口県赤十字病院) 患者にとっては十年来のわずらいになる。 十歳のころ、初めて股間に違和を覚えた。 小さなしこりに過ぎないが、確実に「何か」がそこにある。少年が成長するにつれ、「何か」も併せて体積を増し、少年から青年へ、身体が闌(た)ける時分には、もはや自然治癒などと希望(のぞ)むも愚かな、そういう規模に成り遂げた。 二十歳(はたち)の峠を過ぎたころ、いよいよ日常生活に支障を来すまでになる。金…