一 暦の上では昨日は立春である。その二日前の朔(ついた)日(ち)に庭の紅梅が一輪だけ開いた。今日はもうそれから四日経つが、外の無数の蕾はふっくらとしては居るが、まだ開こうとしない。ちょっと不思議に思った。今日は朝から冷たい雨がしとしとと降っている。これでまた開花は延びるだろう。 「梅一輪一輪ほどの暖かさ」という句がある。確かにたった一輪の小さな花でもほのぼのとした感じを与えてくれる。当に此の一輪の花は「春の魁(さきがけ)」である。 年を取り一人になると無常感が湧く。『平家物語』を再読しようと思って書架から取り出した。 祇園(ぎおん)精舎(しょうじゃ)の鐘の声、諸行無常の響きあり。 沙羅(しゃら…