玉鎮丹、如意丹、人馬丹、陰陽丹、士腎丹、蝋丸、長命丸、鸞命丹、地黄丹、帆柱丸。 以上掲げた名前はすべて、江戸時代に製造・販売・流通していた春薬である。 左様、春薬。 現代的な呼び方に敢えて変換するならば、媚薬とか催淫剤とかいったあたりが相応しかろう。まあ要するに「いもりの黒焼き」の親戚めいた存在だ。 (黒焼きの製法) ――支那伝来の薬方にて調合せしうんたらかんたら。 こんな具合の触れ込みで世の助平どもを釣り上げるのがならわし(・・・・)だった。 人はとにかく煩瑣を厭う。面倒な手続きなど踏みたくないし、立ち塞がる険路を見ては馬鹿正直に乗り越えるより、何処かにそれを回避する抜け穴・裏道・隠し通路は…